薪割機の高速化の話、それに続く油圧ポンプの話に続いて油圧シリンダのことについて書いておきたいと思います。過去のエントリーを読んでくださっていることを前提にを進めます。
あと、毎度のお断りですが、油圧システムの専門家ではないですので、嘘があるかもしれません。嘘があったら、ご指摘ください。
昨日、「アメリカで予約殺到!?の薪割り機」と題して、Brave 社の新しい薪割機の話を急遽書いたのですが、その中で、シリンダーは押す力よりも引く力が弱いよ、ということを書きました。また、押す時よりも引くときのほうが速く動くよ、とも書きました。
例えば、ホンダウォークの薪割機のスペックシートには次のように書いてあります。
http://www.hondawalk.jp/hp/image/ph_gs13.pdf
サイクルタイム: 14秒(出 8秒/戻 6秒)
どうしてそのようになるのか、考えていきましょう。そのために、まず、シリンダの構造・種類を見てみましょう。
シリンダには大きく分けて、単動型シリンダと複動型シリンダにわかれます。薪割り機にはどちらも使われています。
単動型は、押し型と引き型があり、それぞれ押す時または引く時、どちらか一方のみ力を発揮するシリンダです。戻すには、自重やバネの力を用います。単動型シリンダで最も馴染みがあるのは、いわゆる「ダルマジャッキ(ボトルジャッキ)」ではないでしょうか?
ダルマジャッキは、物を持ち上げるときには油圧で動作しますが、下ろす時には、弁を開放し、解放具合により下降する速度を調整しますが、重力により戻るわけで、油圧で戻しているわけではありません。
ダルマジャッキを使った手動の薪割り機という珍品もあります。この場合、戻る力として重力が使えないため、スプリングが仕込んであるのがお分かりいただけると思います。
電動薪割り機の一部も油圧の供給が電動モータに変わるだけで、同じようにスプリングの力で戻るものがあります。
このタイプは、戻る力は非常に弱いので、薪に噛みこんだりした場合、戻らなくなることがあります。その為、シリンダはラムを動かし、ウエッジに押し付ける設計でなければなりません。
次に最も一般的に使用されているシリンダですが、複動型といって、押す時、引く時の両方で力を出します。
非常にわかりやすい図がありましたので、リンクしておきますが、複動型シリンダには基本的にポートが 2 つあり(それ以上あるものもありますが、構造的には同じで、ポートの取り回しの都合で複数あるだけです)ます。
使っている用語、単位が違いますが、伸び=押し、縮み=引きとなります。
図を見れば一目瞭然ですが、押す時(伸ばす時)には、シリンダの左側、イラストで赤く示されている部屋に高圧の作動油を送ります。右側、水色の部屋の作動油は、圧力が低いのでピストンは右側へ移動し、押す力を生み出しながら伸びるわけです。
同様に、引く時(縮ませる時)には、シリンダの右側に作動油を送り込みます。そうすると、左の部屋の作動油が押し出されて、引く力を生み出しながら縮むわけです。
この時発生する力は、パスカルの原理で説明できます。
図では、シリンダの直径は 10cm、ロッドの直径は 4cm となっています。
押す時には、シリンダの直径の面積に 210kgf/cm2 の圧力がかかるわけですから、円の面積は、半径 x 半径 x 3.14、小学生の算数ですが、それに圧力 210 をかけると生み出される力が計算できます。
計算は Google 先生にお願いしましょう。
「(5 ^ 2) π * 210 kgf in kgf」と検索すると、16 493.3614 kgf と計算してくれました。kgf は標準ではないので、明示しないと N に換算されてしまいます。
さて引くときはどうでしょうか?
ピストンの移動のために作動油の圧力がかかる面積がロッド分少ないですよね?
「(5 ^ 2 – 2 ^ 2) * π * 210 kgf in kgf」となり、135.865483 kgf であることがわかります。
図は計算間違いをしています。「(5 ^ 2 – 4 ^ 2) * π * 210 kgf in kgf」の結果が 5 937.61012 kgf ですから、ロッドの直径ではなく、半径が 4cm の時の数字です。
いずれにせよ、面積が少なくなった分だけ、力が弱くなってしまったわけです。
また、小学生の算数の時間を思い出してください。体積の計算ですが、面積 x 高さ、と習いましたよね?
面積が小さくなる=体積が小さくなる、ということですから、一定量の油が流れ込むなら、その体積を満たすためにかかる時間はどうなりますか?短くなる=早くなる、シリンダの動きは速くなるということです。
薪割機のスペックシートには、シリンダサイズはインチで記載してあったり、圧力は MPa や PSI など単位が入り乱れています。
簡単な計算練習をしてみましょう。
普通シリンダのスペックは、3000 PSI, 4in. Bore, 24in. Stroke のように表示されていることが多いです。シャフトの直径については、タイトルで表示されることは少ないのですが、Shaft Diameter (in.) 1.75 などのようにスペックシートには記載されています。
このシリンダの押し引きの力を計算しましょう。
押す時は、((4/2)^2) * π * 3000 pounds in kgf となりますね。17 100.0295 kgf なので、17トン、ということになります。
引く時は、((4/2)^2 – (1.75/2)^2) * π * 3000 pounds in kgf なので、13 826.977 kgf、14 トン弱ということです。
もし、シャフトが 2″ なら、引く時は、((4/2)^2 – (2/2)^2) * π * 3000 pounds in kgf なので、12 825.0221 kgf、13 トン弱ということです。
力が弱くなった分だけ、早く戻るようになります。
逆に、シャフトが 1-1/2″ なら、引く時は、((4/2)^2 – (1.5/2)^2) * π * 3000 pounds in kgf なので、14 695.3378 kgf、14.7トンということで、2″ に比べ 15% 力が強くなることがわかります。
薪割機の仕組みにより、引く力が必要なのか、そうでないのか、それによりシャフトの太さの最適化も必要ということでしょうね。
以上が、簡単な説明ですがお分かりいただけましたでしょうか?