びわこ薪 — 新聞記事を読み解く

前から書いている PackFix の件ですが、びわこ薪の薪屋、こと、グリーンリボンさんが紹介されている新聞記事を見つけました。

http://www.kyoto-np.co.jp/info/keizaitokusyu_old/shin_kokoku/111127.html

まずは記事で、面白いな、と思った取り組みに、

増産する設備を整えるために昨年、利子をまきで支払うというユニークな社債を発行した。固定客たちに一口10万円で募ったところ、約50口が集まった。

ということで、自分は、kickstarter で資金を集めようと考えていたのですが、17% ととんでもない高額な手数料があるので、アーティストのように原価は自分の夢の時間だけ、というような向きにはいいのでしょうが、薪の製造のような装置産業には、決定的に向かないので、すごいアイデアだなと思いました。

じゃあ、自分が真似して同じことをして、50 万集まるか、というとそれすら怪しいので、500 万も集まるほどの実績がある、ということであもり、グリーンリボンさんの人脈・実績、その点もすごい、と言わざるを得ません。

ちょっと夢がなくなるというか、希望がなくなるというか、現実的な厳しすぎる数字もあって、

環境に負荷をかけないよう「地産地焼」にこだわる。顧客の6割は県内で、大量販売も自分で配達できる近隣府県に限定。昨年の売り上げは約1200万円だが、原木の購入代や経費を差し引くと利益は多くない。

ということで、ご夫婦で仕事をされて、売上が 1200 万しかないってことなんですね。
これは、3 年も前の数字ではあるわけで、記事中では、ご夫婦でやっていることになっているのですが、現状は、男の人を雇って奥さんは営業、とブログに書いてありましたので、業績は上向いていると思うのですが。

びわこ薪の価格は、1t 6 万です。そこから逆算すると、200t の販売ということになりますね。立米数で言えば、400m3 というところでしょうから、今の自分の生産規模が年間 40m3 なので、10 倍、ということになります。

これはつまり、顧客は、自分と同じ程度の消費量の人なら 10 人程度、しかし、年間 120 万も薪代に支出する人がいるとは思えないので、実際には、多くて、せいぜい 1t だの 2t だの、それくらいの購入ボリュームではと思うわけです。

そういう顧客層は、6 万円でも買うわけで、これを 5 万、4 万と下げたところで、生産コストを劇的に下げることは困難なので、原価が 3 万なら、4 万にするなら 3 倍働いてもトントン、忙しいだけで意味が無い、ということになりますし、だったら、6 万で買う人にだけ売って、利幅を確保するほうが良い、ということになるわけで。

さらに問題は、薪本体の価格をいくら値下げしても、運賃が嵩むため、そこを手当しない限り、薪が普及することなど絶対にない、いつまでたっても薪ストーブは実用品ではなくて、趣味の領域から抜け出せない、ということかなと思います。

この辺りも、グリーンリボンさんは、PackFix を導入され梱包費用を極限まで圧縮しつつ、琵琶湖を中心に自社配達をされて、爪に火を灯すように経営努力をされているのだと推測します。

北米での採算ラインは、最低でも 500 コード、1000〜2000 コードといわれているので、薪の生産だけで事業として成り立っているといわれるグリーンリボンさんでさえそういう規模なわけで、国内の厳しい現実を目の当たりにしました。

薪ビジネスは典型的な装置産業で、幾つかのリスク要因があると思うのですが、その最大の要因は、森林組合などが国などの補助金で、薪製造装置を導入して大量生産を開始すること、市場の競争原理が働かない勢力がいることです。
なんせ、装置がただ同然で手に入れば、薪の加工コストもただ同然、原木の値段に毛が生えたような価格で大量供給を開始すれば、その辺の薪屋は全滅必至でしょう。

もう一つがバイオマス発電です。

薪ストーブユーザのような超小口の消費家を相手にするよりも、バイオマス発電プラントに売ったほうがよほど手っ取り早いわけで、ここも競争原理が働いていないので、圧倒的な消費ボリュームとジャブジャブの補助金で向かうところ敵なしという状態でしょう。

更にもう一つのリスクはペレット。
イタリアの場合など、一気にペレットストーブが普及していますが、薪を購入するのであれば、価格が安く、品質も安定していて、供給も安定して、衛生的なペレットのほうがあらゆる意味で優れています。
煙突も不要ですし、燃焼も電子制御で、安定して行えるモデルもあります。

愛媛県の場合、南予地区は激戦区なので、中予〜東予を中心に、いつ撤退しても問題ないレベルで、じんわり始めるのが良さそうです。